「地方消滅」が衰退ポルノに市民権を与えた
ボヤキが世論になり、予算の要件になった12年
はてな匿名ダイアリーに、こんな趣旨の投稿がありました。
60代後半の母親が「日本はもうダメだ、後進国だ」というニュースばかりを好み、中国と韓国をやたらに持ち上げ、地元が各種ランキングで最下位だという記事を大好物にしている。なぜ自分が属する国や地域というアイデンティティを、わざわざ下げることがそんなに楽しいのか、と。
投稿者は、栄華を誇った存在が没落するのを野次馬として見るのが楽しい、自分の老いと国の衰退を重ねて溜飲を下げている、若い世代がだらしないせいだと言いたい、という3つの仮説を立てていて、どれも当たっていると思います。ただ、この3つはすべて需要側の説明で、なぜ聞きたがるのかは説明できても、なぜ供給が途切れないのかを説明できません。
メディア自身が高齢化して高齢の視聴者に合わせている構造は、超高齢社会の物価報道について以前書いたので繰り返しません。個人のボヤキで終わるなら、それはただの家庭内の話です。SNSで陰謀論的に楽しむのもまぁ百歩譲って勝手にやっといて、という話ですが、国民の多くが年金受給世代になってるが、投票権も持ち、その有権者たちがこの悲観的な論調に共鳴していくと、政策にまで大きな影響も与えていくと、地方における政策議論でも特に感じます。
でも、このボヤキには数字と権威をまとった公認版があって、それが12年前に市民権を得たのです。それことが「地方消滅」論です。
「地方消滅」が衰退ポルノに市民権を与えた
2014年5月8日、日本創成会議の人口減少問題検討分科会が「成長を続ける21世紀のために ストップ少子化・地方元気戦略」という提言を公表し、896の自治体を名指ししました。座長は元岩手県知事で元総務大臣の増田寛也氏です。定義は一点だけで、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口をもとに、2010年から2040年にかけて20〜39歳の女性人口が5割以上減る市区町村、というものでした。
この定義は、自治体という法人が廃止されるとはどこにも言っていません。若い女性が半分になる、それだけです。それでも提言そのものが「消滅」という語を使い、人口の再生産力が失われて将来的に消滅するおそれが高いという論法を組んでいました。しかも自治体は合併などを経て消滅するという仕掛けは日本には厳密には存在せず、財政的に追い詰められた夕張市ですら再生プログラムで強制的に財政再建を国主導で行ったりしています。その賛否はあれど、地方がいきなり立ち行かなくなって消滅し、放置されるというような危機感は明らかに行き過ぎた煽りでした。
発表当初にも反論を私は当時のブログで書き、さらに2024年版についても以下のように解説しています。
だから、単にメディアが勝手に煽ったという話ではありません。もっとかなり計画された衰退ポルノなのです。発信側が「消滅」という語を選び、報道がそれを増幅し、名指しされた自治体が対策本部をつくるという、三段の連鎖なのです。
その速さが記録に残っていて、23区で唯一名指しされた東京都豊島区は、公表から8日後の5月16日に「豊島区消滅可能性都市緊急対策本部」を設置しました。
衰退の認定から行政組織の設置まで、8日です。
ちなみにその豊島区は、2024年のレポートでは該当から外れています。冷静に考えれば23区の地域が消滅するなんてことは現実的にありえませんから、騒いだこと自体が意味不明でもありました。無駄でしかない。
国の動きも同じ速度でした。提言が5月8日、まち・ひと・しごと創生本部の設置が9月3日、まち・ひと・しごと創生法の公布が11月28日、長期ビジョンと総合戦略の閣議決定が12月27日です。民間の会議の提言が7か月足らずで法律になり、同じ年のうちに全国の自治体へ降りてきたわけです。2015年度には1,700余の自治体が「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」を書き、自分でつくった将来推計を計画の前提に置く形になりました。国が配る策定の手引きは、令和6年6月版まで改訂が続いています。まぁこれは完全に計画された事業とも言えます。地方に予算を撒くための論理として、地方消滅という衰退ポルノに皆が酔いしれ、「もう日本は終わりだ。地方も駄目だ。うちの地元も終わりか」ということで皆の関心が高まったところで、それを解決するのに地方創生予算です。
提言そのものは結局は集約論で、選択と集中、地方中核拠点都市への投資集中、東京への流出を止めるダム機能を掲げていました。そこから、全自治体が一律に計画を書く仕組みが動く、最終的には東京のコンサルが受託しまくって似たりよったりの計画が作られるという地獄絵図になったわけです。
そして、12年経った現在、総務省が公表する市町村の数は1,718で、2014年4月5日に栃木県岩舟町が栃木市に編入されて以降、一つも変わっていません。人口減少を理由に消え去った地域にも、完全に廃止された市町村にも、私はまだ行き当たっていません。実際に市町村を1,505団体消したのは、1999年の3,232団体から2010年の1,727団体へという平成の大合併、つまり国の政策です。集落単位の無居住化は現実に起きていますが、それは市町村の廃止とは別の話なわけです。
2024年4月には、日本創成会議とは別団体で増田氏が副議長を務める人口戦略会議が、744自治体を「消滅可能性自治体」としました。896から744に減ったという語り方をされます。でも母数も対象年次も違って、2014年は福島県を除く約1,800を母数にした2010年から2040年の推計、2024年は1,729を母数にした2020年から2050年の推計です。744そのものは、2回とも該当した645に新たな99を足した数字で、内訳は合っています。合わないのは前回との比較のほうで、別の推計に同じ「消滅可能性」という語をかぶせて並べているだけなわけです。前の予測が当たったかどうかを誰も検算しないまま、次の数字が出て次の計画になっているのです。
『地方消滅』は2014年8月に刊行され、新書大賞2015を受賞しました。老人のボヤキが、それっぽい数字と受賞歴をまとって、社会の共通言語になったのです。
それっぽい数字は、検算されないまま回る
同じことが国の順位でも起きています。



